コラム Vol.1 ご存じですか!? ウェアラブルデバイスのバッテリ駆動時間を劇的に伸ばす秘策(3)

テクノロジーの革新

ウェアラブルデバイスのような「超低消費電力」の領域では、スイッチングレギュレータ回路自体の自己消費電流が、電源効率を下げる原因となります。出力負荷が軽いときには相対的にスイッチングレギュレータの自己消費電流が大きくなり、それが効率を低下させることになるのです。 この問題を解決すべく、エイブリックではスイッチングレギュレータの自己消費電流の目標を「260nA(ナノアンペア)」と定め、独自に開発を進めてきました。それらの革新技術をベースにS-85S1A、ならびにS-85S1Pを完成させています。以下に、S-85S1A/S-85S1Pに採用されている革新技術の中から、特に注目すべき3つを紹介しておきましょう。 ①革新的な制御トポロジ 自己消費電流260nAという目標は、従来技術の延長線上では達成できません。そのため、S-85S1A/S-85S1Pの開発では、制御トポロジそのものを見直しています。具体的には、エイブリック独自のCOT(コンスタントオンタイム)制御の技術を開発し、それをコアとして、S-85S1A/S-85S1Pのシリーズを作り上げました。COT制御はまた、負荷変動に対する高速過渡応答も実現しています。

図:COT制御方式を採用したS-85S1Aと従来製品との過度応答性能の比較

②実績に裏打ちされたローパワー技術 エイブリックでは長年にわたり時計用半導体を手掛け、「ナノアンペアオーダー」の電流に適した製造プロセスを確立しています。S-85S1A/S-85S1Pの小型化や低消費電力化には、こうした実績がフルに活用されています。

図:S-85S1A、S-85S1Pの静止時消費電流

③アナログ回路へのパワーゲーティング技術の採用 ロジック回路などで用いられているパワーゲーティング技術をアナログ回路にも適用しました。これは、使用される回路にのみ随時電流を流す仕組みです。通常、アナログ回路には、立ち上がりの安定制御が難しく、かつ、自己消費電流を抑えると応答速度が低下しがちといった課題がありました。S-85S1A/S-85S1Pの回路では、そうした課題を解決するための工夫が随所に施されています。

業界最小クラスの自己消費電流とパッケージ

上記のようなテクノロジーによって、S-85S1A/S-85S1Pでは、「1mA」以下の軽負荷動作時の効率を飛躍的に高めています。しかも、そのパッケージサイズは、従来品でも定評ある超小型の「SNT-6A(S-85S1A)/SNT-8A(S-85S1P)」の形状を維持。ウェアラブルデバイスのように、スペース的な制約の多いデバイスでの使用に最適化されています。また、各種保護機能もチップ内に搭載しており、外付け回路も含め省スペースで実装できるような工夫も凝らされています。

図:S-85S1Aの省スペース実装

もちろん、ナノアンペアオーダーの自己消費電流を謳う競合製品は他にも存在します。ですが、S-85S1A/S-85S1Pと同等の性能・機能を実現している製品は世界的にもほとんど例はなく、競合をリードしています。 すでに多くのお客様から反響をいただき、下記のような多様なジャンルのウェアラブルデバイスへの適用が進められています。

  • ウェアラブル機器
  • Bluetooth機器
  • ワイヤレスセンサネットワーク機器
  • ヘルスケア機器
  • スマートメータ
  • 携帯ゲーム機器

エイブリックでは、今後も引き続きS-85S1シリーズのラインアップを拡充していく方針です。シリーズの基本回路は2Aといった大きめの出力電流にも対応できるため、そのバリエーションを拡充させていくほか、より高い入力電圧に対応した製品の開発も検討しています。これにより、ウェアラブルデバイスはもとより、家庭用・自動車用・産業用のIoTデバイスへのS-85S1シリーズの採用を推し進め、ウェアラブルデバイス/IoTの潮流に一層の拍車をかけていく考えです。